俺に彼女ができないのはお前のせいだ!
と思いきや。数日後の朝。
「確かに、良一の言う通りだったかも……。今までずっとお父さんに頼って生きてきたけど、そろそろ新しいことにチャレンジしなきゃね、ってお義母さんと話して決めたのよ」
「はぁ」
「孫に喝を入れられるとは、ばーちゃんたちの方こそ修一に顔向けできない状態だったなぁ。今はどこも人手不足だからシニア世代が頑張らねば経済も発展しねぇべ?」
「は、はぁ?」
ということで、2人とも職を見つけることにしたらしい。
お金には困っていないものの、俺の言葉のおかげで働く決心をしたとのこと。
母は乳飲料を売り歩くレディへ。
祖母はラブなホテルの従業員へ。
職のチョイスにツッコミをいれたくなったが、2人とも表情がイキイキしていたためやめておいた。
「じゃあ早速母さん、働きに行ってきまーす!」
「ばーちゃんも今日早番だったわ。じゃ良一、お先ー!」
俺がのんびり朝食を食べている中、そそくさと母と祖母はでかけていった。
「なんなんだよ。切り替え早すぎるんだよ……」
ババァチームの勢いについていけない俺。
家を出る前、和室の仏壇にある親父の写真を眺めた。
親父は、細い線香の煙の奥、キリッとした目で家の中を見つめている。
だけど、俺は最後に見た、穏やかな表情を思い出していた。
――お前はよく頑張ってる。
最後の最後で、あんなに簡単に俺をほめるくらいだったら、
生きててくれた方がましだ。
おかげで何にも満たされている気がしない。
この先、一生、満たされる気がしない。
母も祖母も親父の死から立ち直ろうとしている。
俺だけが取り残されている。