甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
エインズワース邸は古く重厚な感じのする館だ。
家具も調度品も一流のものではないが、丁寧に扱われ、時代を
経てきた物の良さが表れている。
サロンでのお茶もそこそこに、人目をはばかるようにレナルド=オルセン
伯爵を自室に招きいれたイリーナは、そわそわと落ち着きのない素振りで
鏡台の引き出しを開けると、ベルベッドでおおわれた平たい箱をとりだした。
ブルー・サファイアだ、とすぐにユアンはそう思ったが、そんな思いは微塵も
表にださず、じっとイリーナを見る。
瞳に迷いと怯えをうかべ、それでも必死にイリーナは口を開いた。
「ブルー・サファイアです」
大げさに驚いた顔をしながら、ユアンはイリーナの手から箱を受けとる。
「見てもいいかな」
イリーナがこっくりと頷き、レナルド......ユアンは慎重に蓋をあけた。
真珠と小さなサファイアの連なりの先に一際大きなサファイアがシルバーの
細工に縁取られて下がっている。
とろりとした深い水の底を思わせる濃い色。
窓の光をうけて、それは妖しく煌めいた。
「素晴らしい......」
ユアンは心から感嘆の声をもらした。
引き込まれるような美しさを持った宝石だ、なるほど何人もの人間が
手に入れようとしたのも、わかる。
「ありがとう、イリーナ」
ユアンは箱の蓋を閉じ、イリーナに近づくと力強く彼女を抱きしめた。