甘い罠には気をつけて❤︎ 俺様詐欺師と危険な恋
寝不足気味のさえない顔色を気にしつつ、フィーネは髪を買ったばかりの
ピンで纏めあげると、ドレスのボタンをきちっと襟元までしめた。
買ったものはすべて昨日のうちにユアンの家に届けられていて、今朝
フィーネはさっそく新しいブルーのドレスを身につけたところだ。
令嬢が身につけるような上等なものではないけれど、きちんとした布で
シンプルに作られたドレスは、着心地もいいし、着ていてなにより落ち着く。
お姉さんたちのお下がりのドレスは、着ることよりも脱がせることの方に
重きをおいてあるのでは、と思うほど心もとなかったから。
身なりを確かめ鏡に向かって神妙な顔をすると、フィーネは、ぱんと
両手で自分の頬を叩いた。
「さ、フィーネ、実行あるのみよ」
そう声にだし、フィーネは部屋を後にした。
娼館の食堂には、いつものようにそれぞれ好きな場所に座って朝食
をとっている人たちがいて、フィーネが入っていくと、あからさまな
好奇の目がむけられた。
「なに、あの格好」
「良家のお嬢様だとでも言いたいのかしら」
そんなひそめた声が聞こえてきたが、フィーネは平気な顔をする。
ここでは場違いなこの服が、娼婦たちのいい、からかいのネタになるだろうと
思っていたし、それに服を買ったのがユアンだと知れれば、それはもう
からかいではすまない、充分悪意のこもった悪口になるだろう。
そんなことでへこたれてるわけには、いかないんだから。
フィーネは決意のこもった目を、隅のテーブルで新聞を広げている
バーバラに向け、まっすぐに彼女のそばまで歩いた。
夜遅くまで娼館の切り盛りで忙しいのに、バーバラは朝はちゃんと
食堂にくる。
もっとも朝食は食べず、新聞を読みながらコーヒーを飲むだけで
今朝も空になったカップが、テーブルの上に置かれていた。