離婚、しませんか?
初動の遅れは、夫に見惚れたせいでした
こんな段取りじゃなかったのに。
私、どこで間違えた?


ちょっとここまでの流れを高速でおさらいしてみよう。



今夜の決行の時を前に、私は一人きりの夕食も家事も気もそぞろに済ませ、間もなく帰って来るであろう夫をリビングのソファに座ってひたすら待っていた。

間もなく八時五十分になろうかという頃、いよいよ高まる緊張感にじっとりと汗ばんだ両手を落ち着きなく擦り合わせながら、夫にどう切り出そう、やんわりと……いや、はっきり言い出すべきだろうか、なんて考えている内に、うっかり帰宅を知らせるインターホンを聞き漏らしてしまったらしい。

ふと物音に気付いて顔を上げた時には既に、夫がリビングの入り口に佇んでいた。

いつもならば玄関まで迎えに出る私に夫が『ただいま』と微笑んで、私も『お帰りなさい、お疲れさま』と同じく微笑み返して。
夫の鞄を受け取るのと同時に夫に抱き竦められ、キスへとなだれ込むのがお決まりのパターンだったが。
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