シグナル
井上自身、長年付き合った中で、
これ程取り乱した武雄は初めてであった為、
かなり驚いてしまった。
「落ち着け、いったいどうしたんだ、
話してくれないと分からないじゃないか!
家にいるんだろ?
すぐ行くから待ってろ!」
電話口から伝わる武雄の取り乱しようが、
尋常ではないと察した井上は、
武雄と直接会って話すべきだと思い、
坂田家へ向け急ぎ車を走らせた。
坂田家から井上の事務所までそれ程離れていない為、
二十分程の道のりであり、
その二十分が落ち着きを取り戻すのに僅かながら役に立ったかもしれない。
坂田家へと着いた井上は、
車を降りると玄関の前に立ち、
インターホンを押しながら呼び続ける。
「俺だ、井上だ!」
ドアが開き武雄が姿を見せる。
「済まない、わざわざ来てくれて…
入ってくれ」
中に入った井上は、
そのままリビングに通されていく。
リビングのソファーには美智代が俯いて座っており、
井上の目には、
彼女が目を潤ませ泣いている様に見えた。