一途な御曹司は、ウブなお見合い相手を新妻にしたい
うっ、生まれて初めて食べた? ……嘘でしょ?

箸を持ったまま茫然としてしまう。

「ねぇ、もう一個食べてもいいかな?」

「あ……はい、いくらでも……」

呆気にとられたまま言うと、南さんはまた美味しそうに口に頬張った。


それからも「美味しい」と言って食べてくれる南さんに、でき合わせのおかずしか用意しなかったことが、申し訳なく思ってしまった。


けれど彼は気に入ってくれたようで、びっくりするほどたくさん食べてくれた。お父さんと私が物足りないと感じてしまうほどに。


「美味しかった。ごちそうさまでした」

食べ終えるとしっかり両手を合わせられたものだから。恐縮してしまう。

「いいえ、むしろすみません、こんなものしか用意できず」

申し訳なさそうに謝るお父さんに、南さんは手を左右に振った。


「とんでもないです! むしろ感謝したいくらいです。こんなに美味しい食べ物がこの世にあったとは……。僕には、まだまだ知らない世界がたくさんあるようです」

「はぁ……」

オーバーな物言いに、なぜか居たたまれない気持ちになってしまう。
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