叫べ、叫べ、大きく叫べ!
「――ヒッ」
「あ、ごめん」
驚きのあまり思わず声を上げた。
小さな叫び声は階段中にこだました。
それをかき消すように今度は笑い声がそこら中を占領する。
人懐っこい顔立ちはくしゃりと歪ませて私の肩をぽんぽんと叩いている。
いや、私は机か何かですか。
あははと笑う目尻を都波は人差し指の第二関節を使って拭った。
「てか、すんごい顔してたねっあはは」
「……人の驚いた顔みて笑わないでください」
「だって、はじめて見たんだもん。園田さんの驚いた顔」
未だに笑い続けている彼をよそに今度はわざとっぽいため息をこぼした。
やっぱこの人苦手だ。
雰囲気もこの笑顔も、私には眩しすぎる。
私とは別世界の人なんだなと思ってしまった。
そんな彼をただただ、羨ましいとも思う。
素直に笑えるっていいな。
こんな風に声に出してさ。
私なんて笑っているのか分からないもの。
自分では笑っているつもりでいても、相手には伝わってない。
笑顔になれるって生きている上で大事な感情表現なのに。
「ねえ、いつまで笑ってるの」
「え?ああ、ごめん。もう笑わな、」
「笑ってんじゃん」
人の顔みて思い出し笑いとか最低。
やっぱこの人苦手だ。
そんな彼を無視して再び歩み始めた。