叫べ、叫べ、大きく叫べ!
いつもより晴れた心。
朝とはまるで別物の心に身まで軽くなった気がした。
急に鼻歌なんか歌いたくなって、少しだけ。
お馴染みの曲を少し口ずさむ。
でもそんな楽しい時間も家に着いたら終演した。
「ただいま」
いつもより少しトーンが上がったそれはさっきまでの気分がまだ居座っていたから。
玄関には久しぶりに見る大きな黒の革靴。
それは父が“帰ってきた”ことを意味する。
そして聞こえてきた耳を塞ぎたくなる2人の声。
帰ってくる日はいつも罵声ばっかり家中を支配している。それにはもう慣れている。
だけど。
「ねえっ!やめてってば!!!ねえ!2人ともっ、けんか、しないで……っごめんなさい、ごめんなさい……っ」
栞那の声が耳に届いた。
慌ててリビングに行くと信じられない光景が目の前に広がっていた。
「なに、これ」
“信じられない”
といった目を私は母と父に目を向ける。
テーブルの周りはいろんな紙が散らばっていて、他にも卓上カレンダーやティッシュケース、爪楊枝――そこら中に散らばっていたのはテーブルの上に置かれていたものだった。
ソファには栞那が疲れたように泣き崩れていた。
父と母の横を通り過ぎ栞那に近寄った。
「大丈夫!?」と彼女だけに聞こえるように聞くとうんと首を縦に振った。
近くにあったティッシュケースを手繰り寄せて妹に渡し、今度は両親へと視線を向けた。