叫べ、叫べ、大きく叫べ!

「ごめんな」と言った父の顔は少しあの頃の泣き顔に似ていて、苦しくなる。


言葉が出ない。
ただ、頭を撫でられているだけで。

私は何も言えない。



──バシ


乾いた音が私の頭近くで聞こえた。

そして、グイッと腕を引っ張られる。

父と離れ、隣にいるのは怖い顔をした母がいた。



「この子に触るな!」


その声は酷く掠れていて嫌に部屋中に響く。


目の前の父は叩かれた手を摩っていて、私を見て優しく微笑んでいる。


まるで『ごめん』と言っているみたい。


私は思わず首を横に振った。

だってお父さんは何も悪くない。
ただ私を……。



「なに夏澄。この人のこと庇うの?」

「ぇ」

「今首振ったよね? それどういう意味?なに?お母さんが悪いの?こんなに傷付いてるのに?私が悪いっていうの!?」

「そ、そんなこと言ってな、」

「その態度がムカつくンだよ!!お前もやっぱ一緒だな!?私の事なにも思ってない。この人と一緒。じゃあ一緒に行けば?」

「なに言って……」

「あんたなんか要らない。私は栞那さえいればいいよ。この人と一緒に出ていけよ!!」


掴まれてる腕が痛い。痛い痛い痛い。

なんで。なんでこんな風に言われなきゃならないの。私が何したっていうの?

意味がわからない。なんで私がこんな目にあわないといけないの?


母の顔から目が離せない。


我を失っているような虚ろな瞳の中に怒りの籠ったまなざしが私を静止させる。


胸が苦しい。
この人の前で泣きたくないのに。

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