国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
海は広大だ。

ルチアたちがいる場所は海の中のオアシスのようなエメラルドグリーン色で浅いが、その周りは深いブルーになっていく。

その色は深さを示している。

しだいにブルーが濃くなると、島の男でも地底に着くことが出来ないくらい深い。

そして、そこには恐ろしい海の生き物が住んでいる。

数年前にルチアとジョシュの両親が街に出かけた帰りに嵐に会い、小さな船から投げ出されたのは、人を食うという生き物が住んでいる海域だった。

嵐に見舞われた四人の帰りが遅いことを心配した島の男たちが探しに出たところ、ジョシュの父親が海に浮かんでいるところを発見された。

片腕と片足がなかったが、助けられた時はまだ意識はあった。

恐ろしいサメにやられたことを息も絶え絶え口にすると、ジョシュの父親は亡くなった。

ジョシュの母親とルチアの両親は人食いサメに食べられたのだ。

それ以来、一族はその海域を避けるように漁をしている。

ルチアは過去の嫌なことを思い出し、みんなが心配なった。

海から上がり、皆が広場と呼んでいる場所へ行く。

そこには長老を含め、数人の老人、祖母らが輪になり話をしていた。

一番初めにルチアに気づいたのは祖母だ。

「ルチア、家にいろと言っておいただろう!」

濡れているルチアの姿を見て、皺のある顔を思いっきり顰める。

「みんなはあの海域へ行ったの?」

ルチアは祖母から長老へ視線を動かし聞いた。

「いや、その先じゃ。そこなら人食いサメはいない」

「その先……とても深いんじゃ……」

「もちろんそれは承知しておる。協力をしなければ我々は反逆罪でどんな目に合うかわからんのじゃよ。ルチア。結局男たちは潜らされ、お前たちは近衛隊の慰みものになってしまう。何も出来ないわしたちは殺されるだろう」

「ひどい……本当に断ればそうなってしまうの?」

ルチアは帆船の甲板に立つ男の顔を思い出した。非情な顔つきで、長老の話は本当なのかもしれないと思わせる男。

「ルチア、お前は近衛隊の目につかないよう家にいるのじゃ」

長老はいつになく厳しい顔つきだ。

「でも!」

男たちに混ざり、自分も潜れる。誰よりも泳ぎが達者なのだから。

「お前が島の男たちより長い時間潜れることはわかっておる。しかし、お前は女じゃ。お前が一緒に潜れば海の神が怒るかもしれん。エラや女たちにはこれから話す」

ルチアに忠告すると長老らは立ち上がり、歩き出した。


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