国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
その日、帆船は日が暮れかけた頃、戻って来た。

皆の帰りを待つルチアは祖母のいない時を見計らい、何度桟橋と家を行き来したことか。

「帰って来たわ!」

帆船を遠くに見つけると、ルチアは明るく小屋に入る。

「ルチア! 出ちゃいけないと、何度言ったらわかるだい!?」

「おばあちゃん!」

「お前は無鉄砲じゃから心配だよ……私は自分の命よりお前が大切だ。お前にもしものことがあったら生きてはおれぬ。お願いだから言うことを聞いてくれ」

祖母はルチアの手を両手で包み込むと哀願する。

「おばあちゃん……」

わかったわ……と、口を開こうとした時、外で足音が聞こえた。いつもの軽快さはない。

そしてすぐに薄布が捲られ、ジョシュが入って来た。

「ジョシュ! お帰りなさい!」

ジョシュは小さく返事を返すと、ふらふらと部屋の中へ入りバタンと床に倒れた。

「ジョシュっ!?」

床に倒れ込んだジョシュは身体を丸めて震えていた。

ルチアはジョシュの側に膝をつき、震える身体を揺さぶる。

「おばあちゃん! 熱があるわ!」

「なんという事だ! お前はジョシュの身体に布を巻き付けていなさい」

祖母は急ぎ足で家を出て行った。

ルチアは言われた通り、家にあるありったけの大きな布を手にして、ジョシュの身体に巻きつけた。

(健康で若いジョシュがこんな状態になるまで働かされたのなら、他の人たちは……?)

ルチアはこんな状態になるまで働かせた近衛隊に怒りを覚えながらも、どうすることも出来ずに憤りを覚えた。

少しして祖母が戻って来た。手に薬草を持っている。

「ルチア、これを煎じてジョシュに飲ませてやりなさい」

「はい」

ルチアは薬草を受け取ると、雨水をためたかめから水を鍋に組み、外に出て火を焚き始めた。

「ジョシュは疲れた皆の為に余計に潜ったらしい」

祖母が一緒に潜った男たちから聞いてきた話を教えてくれる。

「……ひどすぎるわ。こんな状態になるまで潜らせるなんて……」

ルチアはラウニオン国の帆船に乗っていたあの男に怒りを覚える。


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