国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「ルチアさん、どうぞ」

 
ジラルドに手を差し出され、顔を上げると葦毛の馬がすぐ近くにいた。

「乗ってください」
 
先ほどは馬車だったが、今度は馬の背。

まったく乗ったことがなく、ルチアは首を大きく横に振る。優しい目をしているが、馬の背は高さがあり、とてもじゃないが乗れそうにない。
 
この背に乗ると思うと怖くて仕方ないのだ。それでも迷惑がかかると考えて、馬の頬を撫でようと手を伸ばすが、触れた瞬間引っ込めてしまった。

「……わたしは先ほどの馬車で戻ります」

「あの馬車は帰してしまいましたよ」

「じゃあ歩いて帰ります」
 
街から城までまっすぐの道。城を見ながら歩けば着けるだろう。

「ジラルドさんは先に帰ってください」

(ユリウスさまもジラルドも忙しいはず)

城から抜け出して迎えに来させてしまった罪悪感がある。

「あなたを置いてひとりで帰れませんよ」

「でも、馬は無理です」

街の人々に注目されていたルチアは歩き出した。

「乗ってください! 城に着くころにはヘトヘトになりますよ。あなたは病み上がりだ」

「大丈夫ですから。体力には自信があるんです」
 
慣れない靴のせいで足が痛いが、ルチアは我慢して城に向かって歩く。
 
女の扱いが下手ではないジラルドだが弱った。

無理に馬の背に乗せることも出来ず、護衛はユリウスに全員付いて行きひとりもいない。

ルチアを残し、自分が一度城に戻り馬車で戻ってくる。そんな考えも浮かんだが、ひとりにするのはあの騒ぎのあとで心配だ。

ジラルドは仕方なく葦毛の馬の手綱を持ってルチアに近づく。

「そんなに馬は嫌ですか?」

「乗ったことがないので、怖いです」

「同じ島で育ったエラさまはそんなことなかったですよ」
 
ジラルドはどうにかして乗せたかった。歩きは時間の無駄だ。

「ですから先に戻ってください」

「あなたは頑固ですね」
 
ジラルドが手綱を引く馬がルチアのそばを歩くと、ビクッと肩を揺らした彼女はサッと離れる。


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