国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「エラの父親も同じ状態らしい」

「このままでは他の者もいずれは……」

「おばあちゃん! 薬草をお願い! あ、少し薬草をもらうわね!」

ルチアは床に落とした薬草を拾うと、祖母の手に持たせ家を出た。

向かう先はエラの家。エラというのはルチアと同い年で、ブロンドを顎のラインでカットした可愛らしい女の子だ。

年が近い女の子はふたりだけなので、姉妹のように仲がいい。

特にエラは守ってあげたくなる雰囲気をもっており、同い年ながらルチアは姉のような気持ちになる。

「エラ!」

ルチアは苦しそうに眠る父親を母親と一緒にただ見ているエラに声をかける。

「ルチア!」

「これを煎じておじさんに飲ませて」

薬草をエラに手渡すと、ジョシュが心配ですぐに引き返す。

エラの家を出て少し行ったところでルチアは人にぶつかり倒れる。

「きゃっ!」

「ここには若い娘もここに住んでいるのか」

少し驚いたような低い声がルチアの頭上からした。

両手を床についたルチアはハッとして顔を上げた。

今朝帆船の甲板にいた男だった。

床に手をついているせいか、男はそびえたつように大きく見える。

「娘! バレージ子爵だ! なんという失態を! すぐに謝れ!」

ルチアにぶつかった男の少し後ろにいた男は一歩前に出てルチアに怒鳴る。

「す、すみ……申しわけありません……」

ルチアは男の前でひれ伏すように頭を下げた。気を取られてぶつかったのはルチアの方だ。

この男たちは気に食わないが、謝るしかない。

バレージはルチアを見下ろす。

スラリとした肢体に腰より長い淡いブロンド。

側近が持っているランプの灯りだけの薄暗い場所でもそこだけが輝いているように見える。

「顔をあげろ。おい! 明かりを!」

バレージは後ろの男に娘をランプで照らすように言う。

ルチアは仕方なく顔をあげた。

「ほう……こんなに美しい娘がここにいたとは……」

ルチアの顔を満足げな顔つきで品定めをしているようだ。

「しかし、肌の色が黒いな」

肌の色が黒いと言われてルチアは内心ムッとしたが、表情には出さないくらいの常識はあった。

< 13 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop