国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
ふいに伸びてきた手がルチアのあごを掴み、ぐいっと上を向かされる。

「日の光の下でお前の顔を見てみたいものだ。明日の朝、船へ来い」

尊大すぎる命令口調にルチアは返事をしない。

「娘、名はなんという?」

掴まれたままの顔だが、ルチアはプイッと横を向く。

そんなルチアの態度を見かねたバレージの側近の男フェデリコが声を荒げる。

「女! 態度が悪いぞ!」

「フェデリコ、いい。娘、わかったな?」

ルチアは返事に困っていた。

しかし行くと言わなければどんな目にあわされるかわからない。

冷酷非情な性格が目の前の男の瞳に宿っているのがわかる。

小屋でおとなしくしていろと祖母に言われていたのに、見つかってはいけない男に見つかってしまい悔やむばかりだ。

「……は……い」

ルチアの顎を掴んでいた男の指が外された。

かすかな首の痛みに顔をしかめそうになるが、ルチアは堪える。

バレージ子爵と呼ばれる男はルチアの麦の穂のような色彩の髪に触れると立ち去った。

男たちが闇に消えると、ルチアはとぼとぼと迷いのある足取りで祖母の待つ小屋に戻った。

一枚布をそっと手で押し上げ小屋に足を踏み入れると、ジョシュの側にいた祖母が振り向いた。

「遅かったじゃないか」

それほど時間は経っていないのだが、心配で仕方なかった祖母には時間の流れが遅く感じられたのだ。

「そう? そんなことないよ。エラにもあげてきたわ」

不自然にならないようにそう言って、棚から大きな綿布を持ってジョシュから少し離れたところに横になる。


< 14 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop