国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「熱が出てきたの」

「薬草が効かないのかも……誰か持っていないか聞いてみるわね」

エラは人見知りが強い。島にずっと住んでいるのだが、身近な人としか打ち解けない。

「ありがとう。ルチア。ジョシュは大丈夫?」

「熱はなさそうだけど、数日は動くのは無理だと思うわ」

「そっか……心配……」

異性としてジョシュを好きな彼女は顔を曇らせる。

「大丈夫よ。すぐに良くなるわ」

エラはコクリ頷く。その時、ルチアがいつもの服装でないことに気づいた。

「ルチア? 服が違うんだね?」

「え? あ、うん」

その時、火にかけている鍋がプシューッと音をたてて吹きこぼれそうになった。

「あ!」

ルチアは駆け寄り、急いで鍋の取っ手を掴み持ち上げた。

「あつっ!」

床に鍋を置き、火傷しそうになった手のひらをパタパタさせた。

鼻を閉じたくなるくらいの匂いにエラは顔をしかめながら、鍋の中の茶色い液体を見る。

「ルチア、この先ここはどうなっちゃうの? このままじゃみんなもたないよね? いくら賃金をもらえるからって……」

不安で瞳を曇らすエラにルチアは答えられなかった。

自分たちの命はあの男にかかっていると言っても過言ではない気がした。

(違う。あの男はラウニオン国の貴族なだけ。この命令をしているのは……ラウニオン国の国王だ)

ルチアは心の中で憎しみがふつふつとわき出てくるのを感じていた。

「じゃあ、エラ。またね!」

薬草を煎じ始めたエラにルチアは声をかけると、小屋へ戻った。

鍋を持って小屋に戻ると、祖母はおらずジョジュが身体を起こしルチアを待っていた。

「ルチア、遅かったじゃないか」

心配そうにジョジュは瞳を曇らせている。


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