国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「ルチア、どこへ行っていたんだ?」

小屋に戻ると、横になっていたジョシュが心配そうな顔で身体を起こした。

「ジョシュ、わたしも今日から潜ることになったわ」

そう言って、引き出しから服をだし、ジョシュから見えない布の向こうへ行った。

「潜るって、どういうことだよ!」

布の向こうで苛立った声が聞こえる。

「だって、ここで一番深く、長く潜っていられるのはわたしよ? わたしなら船を見つけられると思うの」

ジョシュの剣幕にもかまわず、ルチアは着替えながら間延びした声で言う。

「ルチア! ばあさんが悲しむぞ。それに海の神さまの怒りに触れたらどうなると思っている?」

「そんなの迷信よ。あのバレージっていう子爵に言われたんだから海に潜るわ」

実際はルチアから頼んだのだが、そんなことは口が裂けても言えない。

「くそっ! 俺も行くぞ!」

布の向こうで悪態をつくジョシュだ。

「ジョシュは無理よ! 今日は身体を休ませて」

ルチアは泳ぎに向いている短めのぴったりしたスカートと、Tシャツでジョシュの前に出た。今まで泳ぐときに着ていたものだ。

短いスカートを穿くと、ルチアの長い脚を目の当たりにして、ジョシュは急いで視線を逸らした。

それから思いついたように瞳を向けると、ルチアが持っている今まで穿いていた長い綿のスカートをひったくるようにして取り上げる。

「これを穿いて行けよ。その姿じゃ、兵士の奴らのいい目の保養だ」

ぶっきらぼうに言ってから、ルチアの胸にスカートを押し付けた。

「もちろん、これを穿いていくわ」

ルチアは急いで今履いているスカートの上に重ねて身につけると、小屋を出て行こうとし立ち止まる。

「あ、おばあちゃんには心配ないからって言っておいてね」

ジョシュの返事を聞かないまま、ルチアは小屋を出た。


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