国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
今日もユリウスの執務室には、海からの風が開け放たれた窓から入ってくる。

潮風は心地よく、懐かしい思い出を運んでくる。

書類に目を走らせていたユリウスは、扉が叩かれる音に集中力がふっと途切れた。

「入れ」

入ってきたのは、さまざまな大きさの書類を小脇に抱えたジラルドだ。

その書類はユリウスの執務机の端に積まれる。

「早朝からよく働きますね。我が国王は」

「お前が次から次へと書類を持ってくるからだ」

目に疲れを感じ、ユリウスは指先で目蓋をもみほぐすように動かす。

「探索隊から何か連絡はないか?」

「はい。広い海ですから、そう簡単には見つからないでしょう」

「……わたしが探索隊の元へ行く。三日後に出発だ」

「ユリウスさまが海に出られるとは、珍しいですね」

ジラルドはおや?と言う風に、片方の眉を上げる。

「大臣たちが妃を娶れとうるさい」

ユリウスの顔が苦々しく若干歪む。

「お疲れのようですね。海に出て休養をおとりになられるのが一番ですね。そのように手配しておきます」

憂いのある横顔を見つめてから、ジラルドは頭を下げて執務室を出た。



ルチアはこんなに薄暗く深い海に初めて潜った。

静かな海に顔をつけ、下に向かって足を軽く動かす。
最初は太陽の光が水に反射し、キラキラと幻想的な表情を見せていた。

下に向かって泳ぐにつれ、太陽の光がうっすら届く程度になる。到底、息は長く続くものではない。

最初のうちは地底が見えぬまま海面へ顔を出す。それを繰り返し行うことにより、ルチアは呼吸のコツを身につける。

透明からグリーン、そして藍色、そのあとの暗い色は恐怖を感じる。それは孤独で、周りで潜る男たちの気配すらわからなくなるほどだ。

そして、深くなるにつれ、水が冷たい。

(っ……はぁ……息が苦しい……こんなことをジョシュたちはやっていたなんて……)

過酷な労働だ。次々と男たちは海面に顔を出しては潜っていく。それを十回も繰り返せば、たちまち体力が失われるどころか、体温までも下がってしまうだろう。

その場所に船が沈んでいないとわかれば、帆船にのり別の場所へ移動する。


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