国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「おばあちゃん、アドリアーノさまに島を案内してくるわ。ジョシュは?」

「ちょっと出てるよ」
 
いつもの祖母らしくなく、さっさと魚の鱗取りを始める。ルチアはそんな祖母に違和感を覚えた。

「……行ってきます。アドリアーノさま、行きましょう」
 
ユリウスも愛想のない老婆と自分との間でルチアが困った表情になったのを見て、何も言わず歩き始めた。
 
祖母が見えなくなると、ルチアは口を開く。

「おばあちゃんが、すみません……」

「どうやらわたしは嫌われているようだ。そう思われても仕方がない。街の娘でさえ、男とふたりきりで歩くのは良しとされていない」
 
それなのにふたりきりでいる自分はどうなのか、ユリウスは自分を笑う。ルチアと一緒にいたい気持ちは確か。それがこんな行動をさせている。一国の国王ともあろう者が。

「わたしは気にしませんから」
 
ルチアはにっこり笑った。その眩しいくらいの笑みにユリウスは目を奪われる。

「君は……」
 
手の届くところにいるルチアにキスをしたい。手を繋いでエスコートをしながら歩きたい。そう思わずにはいられなかったが、寸でのところでユリウスは抑える。

「君……は……?」
 
ルチアはユリウスの言葉の続きを聞こうと、首を傾げる。

「とても可愛い」
 
次の瞬間、ルチアは顔に火が点いたかと思うほど熱くなった。両手を頬で囲むルチアだ。

「そうやっていつも女の子に言っているんですね」
 
あまりにも言い慣れたような感じのユリウスに少し腹がたって、赤くなる自分がバカみたいだと思った。

「いや、君の前に言ったことがあるのは……十五年前かもしれない」

「十五年前? すごく前ですね。でもそれはアドリアーノさまが小さい頃ですね」

「ユリウスと呼んでくれないか? わたしの名前はユリウスだ」
 
ユリウスという名前は街では珍しくない。島を出たことがないルチアになら国王だと気づかれないだろう。そう思っても、身分を偽っていることが苦しくなってきていたユリウスだった。
 
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