国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「冗談にもほどがあるんだからっ!」

ルチアの深い海のような色をした目が潤んでいる。強く抵抗したものの、内心では怖かったのだ。

「ごめん――?」

ジョシュが謝罪をした時、海面が大きく波打ち、足元がぐらっと揺れた。

「きゃっ!」

ルチアの身体は前後に揺れ、急いで木の手すりに手を伸ばした。

突然の大きな波に島の簡易的に作られた桟橋が大きく揺れた。

「大丈夫か?」

もちろん大丈夫だ。落ちても下は海。

「大丈夫だけど、びっくりした。いったいなんなの?」

そう聞いた時、原因がわかった。

島をすっぽり呑込みそうなほど大きな帆船が近づいてきたのが目に飛び込んで来た。

帆船の帆に見たこともない獣と旗の絵が描かれてある。

みるみるうちに近づいてくるそれはまるで悪魔のようにルチアは恐怖心を抱いた。

「ラウニオン国の帆船だ。いったいなんなんだよ! ルチアは家の中に入ってろ」

「でもっ!」

こんなことは初めてだ。何かある。ルチアは恐怖心を抱きながら、興味もあった。

あんなに大きな帆船を見るのは初めてだ。

街へ行ったことのあるジョシュでさえもこの大きな帆船に驚いていた。ラーヴァの港に泊まっていた記憶にある帆船よりさらに大きく思えた。

「お前は女だろ! 奴らが何をしに来たのかわかるまで出て来るなよ!」

ルチアに家へ帰るように言うと、ジョシュは他の家から出てきた男たちと共にもう一度桟橋に走って行った。

仕方なく家に帰ると、祖母が険しい顔で立っていた。

「なに事なんだね?」

「わからないの。とても大きな帆船が近づいてきて、男たちはみんな桟橋に行ったわ」

「大きな帆船が?」

祖母は眉間にしわを寄せて考え込むような表情になる。

「帆船の横に見たことがない獣と旗の絵があったの」

ルチアは印象に残った獣を思い出すと、背筋に震えが走った。

「獣に旗ということは、ラウニオン国の船だろう」

「ジョシュもラウニオン国って言っていたわ」

「ああ。この海域もラウニオン国のもの。いったい何をしに来たのか」

それから祖母は無口になり、ルチアに家から出ないよう言い、ジョシュの帰りを待った。


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