国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
ジョシュの後姿を目で追い、消えるとため息が漏れる。

(エラが行ってしまうのが嫌であんな態度をしているの?……わたしは……ユリウスに行ってほしくない……)
 
そう思っても無理な話だ。ユリウスにはエラを連れて国王に合わせる任務がある。


翌朝、アローラから借りていた服は乾いており、きちんと畳むと帆船に向かった。
 
桟橋に着くと、バレージがいて近衛隊に色々指示をしている。ルチアに気づいたバレージは近づいて来る。

「お前には女ながら無理をさせたな」

「いいえ……」

「これも国王の命令だ。許してくれ」
 
バレージに謝られてルチアは困惑する。労働を酷使させたバレージの印象は嫌な男で、謝られてもそれは変わらない。

「わたしたちは先に戻ることになった。街に住みたくなったら、いつでも来い。俺の妾として養ってやる」

「な、なにを言ってるんですかっ」

「アドリアーノ候に色目を使っても無駄だぞ。街に行けばお前なんかあの方と目を合わすことさえできないんだ。だからもし街で暮らしたくなったら、俺を尋ねてこい」

 ルチアはバレージの言葉に驚き、呆気にとられる。
 
そこへ――。

「ルチアさん、アドリアーノ候がお待ちですよ」

ジラルドだった。ルチアにそう言ったジラルドはバレージに向き直る。

「もうそろそろ出航ですね。気をつけてお戻りください」
 
そう言って、ルチアをユリウスの帆船へ促した。
 
狭い階段を上りながら、前を歩くジラルドは突然立ち止まり振り返る。

「バレージの言う通り、アドリアーノさまはお前のような者がお会いできる方ではない。せいぜい今日を楽しむことですね」
 
ルチアは身分の差を思い知らされたようで、シュンとなる。

「……わかっています」
 
それはもちろんわかっている。でも今日だけでもルチアはユリウスと一緒に過ごしたかった。


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