国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「この嵐はまだやまないのか!」

 
城の執務室から荒れる海を見てユリウスが拳を机にぶつける。
 
外は暗く轟音を響かせている。こんなひどい嵐はユリウスが生きている中で初めてのことだ。

「今夜遅くには去って行くかと思われますが、今はまだ……」
 
ジラルドも荒れ狂う嵐に、街が心配だ。

「船を出す」

「ユリウスさまっ!? いったいなにをおっしゃるんですか?」

「島へ向かう。ルチアが心配だ」
 
この1ヵ月、ユリウスの心にあったのはルチアだった。

島を離れるのを嫌がろうが、なんとか説得して連れてくるべきだったと、ユリウスは後悔していた。

「今船を出せばすぐに沈没します! 無理なことをおっしゃらないでください。それに島にこの嵐は影響していないかもしれません」
 
執務室を行ったり来たり、その間に足を止め窓の外を見ているユリウスにジラルドは首を大きく振る。

「こんな規模の嵐は初めてだ。きっと島にも及んでいるはずだ。島はどんな状態になっているだろうか?」
 
こんなに海が荒れているのならば、島など一飲みかもしれない。いくらルチアの泳ぎが達者でも、体力の限界がある。
 
ユリウスは居ても立っても居られない。
 
そこへ執務室にノックがあり、エラが姿を見せた。

「ああ、エレオノーラ姫」
 
エレオノーラと名前を変えたエラをジラルドは中央のソファへ招く。

「すごい嵐ですね。怖いです」
 
エラは不安そうな瞳をユリウスに向ける。ユリウスはそんなエラを気にも留めず、窓の外へ視線をやっている。
 
ユリウスがふと振り返り、エラを見る。

「エラ、島で避難するところはあるのか?」

「島……ですか……?」

1ヶ月ですっかり城の生活が気に入ったエラは、島のことをこれっぽちも思っていなかった。


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