国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「お前が過ごした島だ」

「あ……そうでした。こんな嵐では島も大変なことになっていることでしょう。非難するところはどこにもないですし」

避難所がどこにもないと聞いて、ユリウスの顔が歪む。

「ああ……ルチア……」
 
ユリウスは執務机の椅子に乱暴に身体を預ける。

ルチアを心配する婚約者に、エラは嫉妬を覚えた。

いや、自分にない美しさや聡明さ、誰からも好かれるルチアを小さい頃からずっと嫉妬していた。
 
不快な顔つきになったエラをジラルドは見逃さず、口を開いた。

「姫、ユリウスさまの心までは欲しいと思ってはいけませんよ」

「わかっています!」
 
エラは苛立たしげに立ち上がると、ピンク色のドレスの裾を翻し執務室を出て行った。

「ユリウスさま、ご婚約者のいる前で他の女性を心配するのは……へそを曲げてしまわれましたよ」

「放っておけ」
 
結婚することになった姫をないがしろにするのは婚約者としていけないことだが、ユリウスにとって愛している女性はルチアだけだ。

たった数日だけでユリウスは恋に落ちたのだ。

エラにはなんの感情も芽生えない。あれほど会いたかった姫だったのだが。

「天候が回復しだい、すぐに島へ向かう。わたしの船ではなく、カタリナ号にしてくれ。島民を連れてこなくてはならない事態になっているかもしれない。それと医師を」
 
カタリナ号というのはバレージが乗っていた帆船のことだ。規模が大きいため、収容人数もある。

「かしこまりました」
 
ジラルドは執務室を出て行った。


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