国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
嵐が収まったのは夜半過ぎだった。これから島へ向かい、到着するのは明け方だ。

「ユリウスさま、行かないでください」
 
出立の用意をしていたユリウスに、エラは泣きそうな顔で言う。

「君が長い時を暮らした島だろう? 心配ではないのか?」

「心配ですが、まだ海は荒れています。もしもの事があったら……」
 
エラはユリウスの腕にそっと触れる。

「船は大きい。もしもの事などないから安心しろ」
 
アローラにシルバーブロンドを後ろでひとつに結んでもらうと、エラの手を外し扉へ向かう。

「アローラ、ルチアのための部屋を用意しておいてくれ」
 
ルチアを城へ連れてくるつもりなのだと知って、エラは愕然となった。

「かしこまりました」
 
アローラは深くお辞儀をすると、出て行くユリウスを見送った。

 

ユリウス一行がラーヴァの港へ行くと、記憶にある男が船を出したいと管理人に交渉している。

こんなに小さな船では危ないと管理人に言われて、先を通してもらえず憤っている男はジョシュだった。

「お前はなぜここにいる? もしかしてルチアも!?」
 
それだったらどんなによいか、ユリウスに希望が芽生える。

「いいえ、ルチアは島です。心配ですぐにでも向かいたいのに、船を出させてくれないのです」
 
ジョシュは地面に膝をつくと、申し出た。
 
ルチアは島だと言われ、希望の光がスッと消えた。

「これから島に向かう。お前も乗っていい」
 
島に詳しい男がいるのは好都合だ。

「ありがとうございます!」
 
ジョシュは頭を深く下げると、帆船に向かうユリウスの一行の最後尾についた。



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