銀色の月は太陽の隣で笑う

これ以上はキッチンまで行ってみるしか音の正体を探る術はなさそうなので、トーマは諦めてまたそっと階段を上り元の位置へと戻った。


「……こんなことなら、もっと恋愛の話を読み込んでおけばよかった」


作者の想像から作り上げられた物語が、現実にどれほど役に立つかは分からないが、今は何かに縋りたくて仕方がなかった。


「ああ、そういえば……前に何度か会ったことのある旅芸人さんが言っていたっけ――」


“女の子の気持ちが知りたければ、習うより慣れろ!”


聞いてもいないのにそんな格言をトーマに授けて得意げに笑っていたのは、とある有名な旅芸人一座の花形である男だった。


「……習うより慣れろって言われてもな」


そんな格言をくれたって、慣れるより先に気持ちが知りたい相手に出会ってしまったのだからどうしようもない。


「どうせならもっと、役に立つ格言が欲しかった……」


ひとまず、どうにもならない格言も、花形の名にふさわしい整った男の顔も一旦脇に押しやって、何度目かのため息をつく。
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