銀色の月は太陽の隣で笑う
下敷きになっていたバッグを引っ張り出して背もたれに引っ掛けると、くたびれた袋が力なく、くたりと垂れ下がる。
随分と年季が入ったものだが、奮発していいものを購入したおかげで、薄汚れても未だ穴は一つも空いていない。
旅をしながら物語を書くと、そう決めて生まれ育った町を出た時からの、変わらないトーマの相棒。
ふと、近くに感じた人の気配に視線を向けると、いつの間にか隣の席にルウンがいて、不思議そうにトーマの視線の先を見つめていた。
「何か……おかしなところ、あった?」
どこか不安そうな響きのある言葉に、トーマは笑って首を横に振る。
「全く。ただ、感傷に浸っていただけ」
懐かしい故郷を思い出し、今まで旅してきた場所を思い出し、そしてそこで出会った人達を思い出していた。
思い出すのが楽しいこともあれば、当然悲しい気持ちになるようなこともあって、でもその全てが、物語を書く上での大切な経験となっている。
トーマの言葉に、なるほどと頷いて見せたルウンは、持ってきたカップをそっとトーマの前に置いた。