銀色の月は太陽の隣で笑う


「うん。なんだか、とんでもなく偉い作家先生になった気分を味わえるよ」


そう言ってトーマは、ルウンの方を振り返って楽しそうに笑った。


「前にね、一度お世話になったことがある家の主が、たまたま僕と同じ。あっ、いや……同じなんて言ったら失礼か。その人は、とっても有名な作家の大先生だったんだ」


トーマは、その人の代表作だという本の題名を幾つかあげたけれど、ルウンにはピンとくるものが一つもなかった。


「そっか、分からないか。でも、世間からどんなに有名人だともて囃されようとも、万人が自分のことを知っていると思うのはただの驕りだって、その作家先生も言っていたからね」


いい言葉だ、とうんうん頷くトーマに合わせて、ルウンもなんとなく頷いておく。


「えっと、なんだっけ……あっ、そうだ!その作家先生の家にね、これと同じような立派な机があったんだよ」


実際には、大きさはもう一回りほど小さくて、椅子の背もたれには掘り細工なんてなかったけれど。


「だからなんかこう……座っているだけで、その先生みたいな立派な作家になれたような気分を味わえるんだ。気分だけだけどね」
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