銀色の月は太陽の隣で笑う

以前お世話になった“大”がつくほどの作家であるその人物は、驚くことにトーマの名前を知っていた。

「そうか、キミがあの……」と呟くように言った時の瞳の奥には、思いがけず出会ってしまったことに対する驚きと、着古した旅装とバッグ一つだけを肩から下げた身軽さに対する羨望とが入り混じっていた。

別れ際、「キミに追い抜かれることがないよう、私も精進しよう」とかけられた言葉は、今も鮮やかにトーマの中にある。

握手を求められて恐縮しながら握った手には、硬いペンだこがあったことも、きっと永遠に忘れない。

ぼんやりと椅子に座って過去に思いを馳せていたトーマは、階下から聞こえてくる微かな物音に現実へと戻ってくる。

スーっと机を撫でるように手を滑らせながら立ち上がると、今度はベッドに向かって、そこにごろりと横になった。

そして今度は、過去ではなく現在のことに思考を飛ばす。

森の奥の洋館に一人ぼっちで暮らす、不思議な銀色の少女について――。

思い出したように体を起こすと、トーマは枕元に置いていたバッグを引き寄せて、中から使い古したノートとペンを取り出す。
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