あたしとお義兄さん
18.夜明けのコーヒー(ただし兄友と)
「細かいの無いんで、千円からお釣りありますか?」
「ねぇよ」
「くっ!じゃあ、お釣りいらないんで、これ」
「やめろよ、リンちゃん。いい女は男に恥をかかせるもんじゃねぇぞ」
注文時、一也は財布をスタンバイした鈴子に向かって、背後を指差した。
『お、山寺○一』『は、何処ッ⁉︎』
と、振り返った瞬間、ワオーン!
兄友が電子マネーで払ってしまっていた。まさかの敗北。
「うん、声優好きとは聞いていたが、渋いな。
その童顔に似合わず、チョイスがアラサー」
「う、うるさいですよ命の恩人。あたしは腰にくる声に弱いんですよ…」
真っ赤になりながら、ハッシュドポテトを齧る31歳。
顔面詐欺師だな、小毬系の所為かコレどう見ても二十代前半まで。
「それで抵抗遅れたのか?」
「……………」
「あいつ、無駄にイイ声だろ?」
「……ちょっと耳元で自律神経破壊型イケヴォイスが炸裂しまして…不覚でした」
悔しそうに膝の上で拳こぶしを握る鈴子。
「で?これから、あんたがどうするつもりなのか聞いていい?」
コーヒーを啜りながら、一也は鈴子に促した。
「一回、アパートに帰れると思いますか…?」
「逃げるのか?微妙なとこだな。彼奴が縄抜けが出来るかどうかは別にして(笑)、そろそろ意識は戻る頃だ。帰るなら送っていくが、この車が特定される危険もある。
この短時間で待ち伏せは考え難いが、可能性はゼロじゃない」
義妹ちゃんの食欲が58ダメージ。マフィンは三分の一で放棄された。
「一時撤退なら、静馬の親父さん家ちがベストだろうな」
「………いいえ、実の母が裏切りますね。今まであたしが義兄から聞かされていた身の上話を、ちょっと盛られでもしたら、私の身は確実にドナドナです。大牛、売られて行きます。我が母ながらチョロいです」
大きな溜息と共に、視線が天井辺りを彷徨う。
「取り敢えず手持ちのお金でネカフェ難民にでもなります。幸い無職ですので、お休みの心配は無いし…ハローワークでも回って、地方での住み込みの仲居さんとか寮母とかの口を探しますかねぇ…」
「ネカフェなんか、静馬なら2時間もあれば特定するぞ?」
淡々と一也は事実を鈴子に告げる。
「んじゃあ、ビジネスホテルは?」
「あいつが見逃すと思うか?」
「……映画館…か仮眠出来る大型温泉施設…」「やめろ。そんなとこで知り合いの女を寝泊まりさせられるか。だが俺ん家…は確実に手が回るから、何とか避難所ヤサは確保してやる」
茶髪のイケメンは意外と性格もイケメンだった。
俺様系か、マジもんの乙女ゲーになってきた。
ヤバい、ちょっぴりときめく。
「ご迷惑を……」
「もう、あんたに『俺が』掛けてる」
大鉈で鈴子の迷いをぶった切ると、その上で一也は提案を出した。
「なあ、今回あいつが悪いのは俺も分かってる。
ちゃんと言って聞かせるから、あんたもあいつの事を真面目に考えてくれないか?」
鈴子の眉が寄って、不機嫌な様子を隠さなかった。
「確かに行き過ぎる処があるが、あんたに惚れてるのは間違いない。
あの調子なら浮気も絶対しねえ。金もあるし、仕事も安定してる。おかしな趣味も性癖も無い。
愛想も良ければ、顔も身形なりも極上だ。
何よりあんたは嫁姑・親族間トラブルなんかとは無縁になる。親父さんも兄弟居ないしな。
────とにかく、リンちゃんにイイ事尽くしだと思わねぇ?」
「思いませんね」
ときめきは消え失せた。女は大事にするタイプだが、親友マブとの友情が邪魔をするって、それ何処のBL?
「義兄がこの上なく好条件なのも、経過はともあれ、本気で好きでいてくれているのも、今では分かります。
ただ、あたしの経験と本能がこう告げているんです。
『アレは、お前の手に負える相手ではない。鑑賞用かぞくなら問題ないが、決してその手を取るな』とね」
朝の長閑な店内に、不穏で緊迫した空気が張り詰めていた。
「細かいの無いんで、千円からお釣りありますか?」
「ねぇよ」
「くっ!じゃあ、お釣りいらないんで、これ」
「やめろよ、リンちゃん。いい女は男に恥をかかせるもんじゃねぇぞ」
注文時、一也は財布をスタンバイした鈴子に向かって、背後を指差した。
『お、山寺○一』『は、何処ッ⁉︎』
と、振り返った瞬間、ワオーン!
兄友が電子マネーで払ってしまっていた。まさかの敗北。
「うん、声優好きとは聞いていたが、渋いな。
その童顔に似合わず、チョイスがアラサー」
「う、うるさいですよ命の恩人。あたしは腰にくる声に弱いんですよ…」
真っ赤になりながら、ハッシュドポテトを齧る31歳。
顔面詐欺師だな、小毬系の所為かコレどう見ても二十代前半まで。
「それで抵抗遅れたのか?」
「……………」
「あいつ、無駄にイイ声だろ?」
「……ちょっと耳元で自律神経破壊型イケヴォイスが炸裂しまして…不覚でした」
悔しそうに膝の上で拳こぶしを握る鈴子。
「で?これから、あんたがどうするつもりなのか聞いていい?」
コーヒーを啜りながら、一也は鈴子に促した。
「一回、アパートに帰れると思いますか…?」
「逃げるのか?微妙なとこだな。彼奴が縄抜けが出来るかどうかは別にして(笑)、そろそろ意識は戻る頃だ。帰るなら送っていくが、この車が特定される危険もある。
この短時間で待ち伏せは考え難いが、可能性はゼロじゃない」
義妹ちゃんの食欲が58ダメージ。マフィンは三分の一で放棄された。
「一時撤退なら、静馬の親父さん家ちがベストだろうな」
「………いいえ、実の母が裏切りますね。今まであたしが義兄から聞かされていた身の上話を、ちょっと盛られでもしたら、私の身は確実にドナドナです。大牛、売られて行きます。我が母ながらチョロいです」
大きな溜息と共に、視線が天井辺りを彷徨う。
「取り敢えず手持ちのお金でネカフェ難民にでもなります。幸い無職ですので、お休みの心配は無いし…ハローワークでも回って、地方での住み込みの仲居さんとか寮母とかの口を探しますかねぇ…」
「ネカフェなんか、静馬なら2時間もあれば特定するぞ?」
淡々と一也は事実を鈴子に告げる。
「んじゃあ、ビジネスホテルは?」
「あいつが見逃すと思うか?」
「……映画館…か仮眠出来る大型温泉施設…」「やめろ。そんなとこで知り合いの女を寝泊まりさせられるか。だが俺ん家…は確実に手が回るから、何とか避難所ヤサは確保してやる」
茶髪のイケメンは意外と性格もイケメンだった。
俺様系か、マジもんの乙女ゲーになってきた。
ヤバい、ちょっぴりときめく。
「ご迷惑を……」
「もう、あんたに『俺が』掛けてる」
大鉈で鈴子の迷いをぶった切ると、その上で一也は提案を出した。
「なあ、今回あいつが悪いのは俺も分かってる。
ちゃんと言って聞かせるから、あんたもあいつの事を真面目に考えてくれないか?」
鈴子の眉が寄って、不機嫌な様子を隠さなかった。
「確かに行き過ぎる処があるが、あんたに惚れてるのは間違いない。
あの調子なら浮気も絶対しねえ。金もあるし、仕事も安定してる。おかしな趣味も性癖も無い。
愛想も良ければ、顔も身形なりも極上だ。
何よりあんたは嫁姑・親族間トラブルなんかとは無縁になる。親父さんも兄弟居ないしな。
────とにかく、リンちゃんにイイ事尽くしだと思わねぇ?」
「思いませんね」
ときめきは消え失せた。女は大事にするタイプだが、親友マブとの友情が邪魔をするって、それ何処のBL?
「義兄がこの上なく好条件なのも、経過はともあれ、本気で好きでいてくれているのも、今では分かります。
ただ、あたしの経験と本能がこう告げているんです。
『アレは、お前の手に負える相手ではない。鑑賞用かぞくなら問題ないが、決してその手を取るな』とね」
朝の長閑な店内に、不穏で緊迫した空気が張り詰めていた。