あたしとお義兄さん
 38.


 ツインテールの美少女に引っ張って行かれた場所は、丁度静馬の病室の真向かいにある内科病棟の一室だった。
 男性患者の六人部屋の中をツカツカと美夜子は突き進んで行く。

「おじいちゃーん、美夜子が遊びに来たわよー」

 彼女はまるで普通の少女の様にニコニコと笑い、無邪気な声を出した。
「おお、美夜子。また来てくれたんかい」
 カーテンが開いて、窓際のベッドに居た人の良さそうなお爺さんが、嬉しそうに応じる。
「当たり前じゃない!大好きなおじいちゃんになら、何回だって会いに来るわ‼︎」
 少し大袈裟なテンションで二人は声を張り上げる。


「美夜子ッ‼︎」「おじいちゃんッ‼︎」


 ひしッ!

 抱き合うその情景を無言で生温かく見守る周囲。鈴子は目元と口元が微妙に歪んだ。
「………あの、美夜子ちゃん……。ご家族の方も入院されてたの?」

 途端、二人は示し合わせた様に、パッ!と離れた。
「柴田、『孫娘ゴッコ』に付き合ってあげたんだから、今度はこっちの番よ」
「は。─────美夜子お嬢様。何なりとお申し付け下さい」
 まるで執事の様に傍に立ち、恭しく頭を垂れる矍鑠かくしゃくたるお爺さんがそこに居た。


 何だろう、コレ。


 こめかみを人差し指でグリグリしていると、同室である入院患者の面々が、ポンポンと後ろから鈴子の肩を叩いた。

「……うんうん。アレを初めて見るんだったら引くよなぁ」
 髭面のおじさんが同情の眼差しで見つめ、頷いている。
「どうも、あの二人で取り決めた交換条件らしいよ。『孫娘ゴッコ』と『執事ゴッコ』」
「シバさん、元々ノリがいいからね〜」
 見ると『孫娘』はキビキビと老人に指示を出し、『執事』はテキパキと何やら機材をセッティングしている。
「………あのー美夜子ちゃん、お爺ちゃんと何しているの?」
 鈴子はおずおずとマジカルレディに声を掛けた。
「ふっふっふ。知りたい?リンちゃん。柴田、あなたの密かな趣味は?」
 何やら飾っていたデッカい縫いぐるみの皮(?)をずるりと剥くと、そこには赤い光を放つ物々しい機械が。


「盗聴でございます」


「────おおーいッ、それ犯罪だからッ⁉︎」
 速攻で突っ込む。
「大丈夫です。元よりバレる様なヘマは致しませんし、女性のお部屋はここから死角になっております故、道義的な被害はありません。専ら他の病棟の男性患者の弱みと、院長、ナースセンター、医者共の秘密くらいしか……」
「いや、充分だから。つか寧ろ、そっちの方がヤバイから!」
 ポン、ポポン、と続け様に鈴子の肩を叩く同室の面々。彼等は既に諦めているらしい。
 揃って無言で首を振る。

「まあ、いいから。リンちゃん見て見て。ほら、真向かい…魔王の部屋なんだけど、誰が居るのか分かる?」

 カーテンが開いていた。
 鈴子は美少女の差す指に釣られる様にそちらを見ると、中に一也が険しい顔をして座っていた。

「赤外線を使うと、盗聴出来るって知ってた?」
 振り返ると、にんまり笑うツインテールのマジカルレディ。
「正確にはレーザー光線ですがね。窓に当てて反射したレーザー波を検出し、強度の時間変化を読むと、光の干渉作用により窓の振動が織り込まれているのでコレを解析して、その室内の音を読み取るのでございます。音声解読用に端末もこれ此処に」
 と、もそもそとパソコンを取り出した。
「一也先生と魔王、真剣な顔してると思わな〜い?アタシの見たトコ、センセはアイツの性格を一番知ってると見たわ。なら、頭のイイあの人の事だから、真相に辿り着いてるんじゃないかな、と思うのよね」
 腕組みをして、ウンウンと頷く美夜子ちゃんは、あたしをマジカルステッキでビシリ‼︎と差す。



「で、聞いてみよーか。秘密の二人の話を」

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