桜時雨の降る頃
突拍子もない反撃に、思わず目をパチクリしてしまった。

す、好きな人?わたしの?

「な、何言って……」

「いやいや、気づかなくて悪かった。そうだよな、雫にも好きな奴くらいいるよな」

うんうん、と1人頷いて妙に納得している。

「え、雫好きな奴いたの?」

陽斗も真に受けてぽかんとしていた。

わたしは否定するべく、それまで座って喋っていたものの、立ち上がった。

「い……」

「「い?」」

二人の声が重なる。

あれ、ちょっと待って。
ここで否定したら、それはそれでバカにされそう……特に朔斗に。

一瞬考えた後、わたしは曖昧な返答に切り替えた。

「い……いるようないないような?」

えへ、と笑って誤魔化す。

じーっとわたしの心を見透かすように見つめてくる2人の視線に胸がチクチク痛い。


「……へー。誰? 同じクラス?」

陽斗の質問に、うっ、と軽くたじろぎながら

「な、内緒!!」

と答えた。

顔に熱が集まっていくのを感じる。

なんで妙な見栄張ったんだろう。

本当は好きな人なんて別にいないのに。
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