桜時雨の降る頃
すると陽斗は当然のごとく、

「食べていきます。雫、どれにすんの?」

と答えてくれる。

「あ、えーと…これ。この紫陽花のやつ」

「うん。じゃあそれと、俺は…これ」

おばちゃんにそう注文する陽斗をまじまじと見てしまった。

だって、陽斗はそんなに和菓子好きじゃないのに……

彼が頼んだのは、わたしが悩んでいた大福だった。


おばちゃんは注文の品をショーケースから取り出しながら、ふふ、と笑う。

「彼氏、優しいわねぇ」

「か、彼氏じゃないです!」

ぶんぶん、と大袈裟なほど手を顔の前で振って否定した。

陽斗に悪いと思ったからだ。


「あら、そうなの? 」

今度は陽斗を見て首を傾げるおばちゃん。

もうこの話はやめてよ、と思っていると

陽斗が笑っておばちゃんに言った。

「もう付き合い長いんですけどね」

「なんだ、そうなの。じゃあ照れてるだけね」

はい出来上がり、と言いながら、お菓子とお茶の乗ったお盆を持って席の方へ軽く案内してくれる。

「ごゆっくりどうぞ」

にこやかに微笑んで、おばちゃんはショーケースの方へ戻ってしまった。


「いつまで突っ立ってんの。座ろうよ」

陽斗の問いかけまで、わたしは呆然としていたらしい。

慌てて陽斗の隣に腰掛ける。

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