桜時雨の降る頃
「あのおばちゃん、すっかりカップルだと思っちゃったじゃん。陽斗があんなこと言うから。せっかくわたしが否定したのに」

美味しそうな練り切りを一口、口に運びながら わたしは文句を言った。


「こんな旅行まで来て、わざわざ本当のこと言わなくてもいいじゃん。たまには非日常を楽しまないと」

何よそれ、と呟くと陽斗は目を細めて意味ありげに微笑んだ。

そしておもむろに手元にあった大福を半分に千切って、わたしへ差し出してくれる。

「はい、半分こ。俺さっきアイス食ったばっかだから食べきれないし」

そうは言うけど、きっと最初からわたしにくれるつもりだったんだろう。


「……しょうがないから食べてあげる!」

「よく言うよ、好物のくせに」

陽斗はプッと笑って自分の大福を口に放り込むと「あまっ!」と渋い顔をしてすぐさまお茶を飲んだ。


「陽斗」

「ん?」

「……連れてきてくれてありがと」

面と向かってお礼を言うのもなんだか気恥ずかしくて、少し目線は下げてしまった。



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