桜時雨の降る頃
「おい」

朔斗が急かすようにわたしの手首を掴んで立ち上がるもんだから

わたしは突然の動きについていけず、よろけた。

よろけた先には、

……朔斗の胸があった。

すんでのところで、抱きとめてくれていたからだ。


「あっぶね。わりぃ、大丈夫か?」

「う、うん。 わたしこそごめん」

思いの外の密着姿勢に急速に顔が火照るのを感じる。

言いながら顔を上げてハッとした。

朔斗がわたしの目元を凝視していたのが分かったから。

やばい。

咄嗟にわたしは朔斗から逃れるように身を引いた。

けれど、それは即座に朔斗によって遮ぎられる。

もう一度、手首を掴まれたからだ。


「……おい」


「……もう寝よっか! いい加減寝ないと寝不足で明日辛いもんね」

努めて明るく言ったつもりだった。


「雫!」

少し苛立ったような朔斗の声にビクッと肩を震わせた。

「誤魔化すな。……なんで泣いてんだよ」


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