ヒステリックラバー

「まあ家はなんとかなりますが運動が必要なのでたくさん散歩しないとですね。二人で協力しないと」

「はい」

答えてからはっとした。二人で協力という言葉に違和感なく返事をしてしまったのだ。直矢さんの言葉の端々に私との未来像を描いていると感じた。
この人にこんなに想われていること、未来を考えていてくれることが嬉しくて、同時に重荷だ。正広にはこんなに大事にされたことがなかった。もちろん将来の話もしてこなかった。未経験の事態に心が揺さぶられる。

けれどこんなに早く直矢さんに乗り換えていいのだろうか。軽い女だと思われたくない。私はこの人に相応しい女でもない。直矢さんと釣り合う自信がない。

ホームセンターを出て車に乗った。

「もう買い物は終わりですか?」

「いいえ、フォークやスプーンを買いにいきます。どうせならオシャレにしたいのでやはり雑貨屋に付き合っていただけますか?」

「はい」

そんなものまで買い換えるのかと驚いた。

「もしかして洗濯機とか冷蔵庫とかの大きな家電製品も買い換えました?」

「それはまだですが、引っ越すときに新しくする予定でいます」

そんなに一気に買い換えるなんてよほど心機一転したいらしい。直矢さんにどんな心境の変化があったのだろう。それに急にいろんなものを買い換える金銭的な余裕があるのもすごい。さすがは将来有望の次長様。同じ会社なのに給料の差を感じてしまい羨ましくもある。

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