ヒステリックラバー

休日の大型ショッピングモールは真っ直ぐ歩けないほど人が多い。ぶつからないように避けながら直矢さんと並んで歩くのは大変だと思ったとき、駅で手を繋いだことを思い出した。あの時も人が多い駅でのことだった。

「直矢さん……」

「何ですか?」

小さな声で呼んでも直矢さんは聞き漏らさず微笑んで私を見た。

「手を……繋いでいただけますか?」

恐る恐る差し出した私の手を直矢さんの手が優しく包んだ。

「今日僕は美優の恋人です。たくさん甘えてください」

そう言って腕と腕が触れ合う距離で並んで歩いた。これなら人を避けていくのは造作もない。こうしていると気持ちが落ち着く。包まれたのは手だけなのに直矢さんに守られている気がする。
カトラリーを選ぶときも、タオルを手に取るときも、繋いだ手を放すことはなかった。

「もういい時間ですね」

車に乗ってナビの時間を確認した直矢さんは「美優はこれからどうしたいですか?」と私の顔を見た。

「どうしたいと言うと?」

「もう帰るようなら自宅まで送ります。もしもまだ僕と居てくれるのなら夕食を一緒にどうですか?」

もう夕食にしてもいい時間だ。直矢さんに会いたいと連絡したのが昼過ぎだから、あっという間に夕方になってしまった。たった数時間しか直矢さんと居られない。それが寂しいと感じてしまった。

「まだ帰りたくないです……」

そう言うと直矢さんは満足そうな顔をして車を走らせた。

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