ヒステリックラバー
「僕の家に来てくれて」
「いえ、私の方こそありがとうございます」
「美優がこの部屋に来てくれたから、嫌な思いだけじゃなくなりました」
「気に入ってないんですか? 素敵なお部屋なのに」
「勢いで決めた部屋なので、あまりいい思い出がないんです」
「そうなんですね……」
築年数も新しそうなマンションだ。2LDKの部屋は直矢さんのイメージ通り綺麗に片付いている。駅からも近くて便利なのに、引っ越しを考えるくらいだから直矢さんは満足していないのだろうか。
「誰かを招いたのは初めてです。美優と過ごした時間で上書きできてよかった」
女性が来てもおかしくなさそうなのに意外だ。でも私が初めてだとしたら嬉しい。
イケメンで仕事もできて料理もできるなんて、私がそばに居ることが申し訳なくなる。
「完璧ですね……」
「何がですか?」
食器を洗う私の横で棚に食器を戻す直矢さんは不思議そうな顔をした。
「直矢さんがです。何もかも完璧」
「完璧なんかじゃないですよ。僕にだって欠点はあります」
「犬が苦手なところですか?」
「そうですが、それだけじゃなく僕の性格というか考え方というか……」
「それってどんなところです?」
「美優もそのうち分かります」
何故だか寂しそうな顔をした直矢さんは私から離れて寝室に行ってしまった。
思ったことをそのまま口にしてしまったことを後悔した。直矢さんの気に障ることを言ってしまったのだろうか。
食器を全てカゴに入れると直矢さんの様子を見に寝室に行くと、ドアの前で中から出てくるところだった直矢さんと軽くぶつかった。