ヒステリックラバー

「ありがとうございます……私これ大好きなんです」

警戒しつつもお菓子のお礼は言わなければと精一杯の作り笑顔を見せた。武藤さんも照れたように笑った。

「それなら良かったです。こちらこそ、あのときはありがとうございました」

「いいえ……」

当たり前にしたことでこんなプレゼントをもらうなんて逆に申し訳ないほどだ。私のことが嫌いなのではなかったのか。

「あ、そうだ。私からも渡すものがあります」

私は足元に置いたカバンから昨日百貨店で買った包みを出した。

「少し早いですけどバレンタインです。どうぞ」

私は手の平に載るほどの大きさの、リボンをかけられた包みを武藤さんに差し出した。

「あ……ありがとうございます……」

武藤さんはまた照れたように笑うと私から包みを受け取った。
イケメンで仕事ができて出世コースに乗った武藤さんは女性にもモテる。毎年バレンタインは何人もの女性社員が個人的にチョコを渡しているのを知っている。それなのに浮いた話は一切聞かない不思議な人だ。
私に見せる照れた顔をどう受け止めたらいいかわからない。

「何人かに配ってるんです」

思わず言わなくてもいいことを口走った。武藤さんにだけ渡したと思われたくなかった。

「今からチョコを配ってるんですか?」

「はい。バレンタイン当日は皆さん忙しいでしょ? それに社員旅行もありますし。だから今渡せるときに渡してるんです」

「男性社員全員には大変ですもんね」

「いいえ、さすがに男性社員全員には渡せません。武藤さんと、山本さんと、あとはほとんど幹部だけですね」

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