聖夜の奇跡

先生らしくない。


こんな不抜けた先生は、見たくない。


くたびれた白衣の、頼りがいがあるようなないような風貌で、それなのに検査の時には自信満々で。


そんな先生が戻ってきてくれるなら
藤川師長が目を覚ますことで、戻ってくるなら。


世間で言う、常識や正論など
瑣末なことのように、思えてくる ―――




そして、金曜の夕方。
内視鏡室の、内線が響いた。


谷先生は、その日の午後の、最後の患者さんの検査報告をデスクで書いていた。
片付けをしていた私は、ゴム手袋を外して受話器を手に取る。



「はい、内視鏡室です」

『お疲れ様です、あの。谷先生はまだ検査中でしょうか?』



電話の向こうの看護婦は、少し慌てた声音だった。
自分の部署を告げるのも忘れている。



「いえ、もう終わってますけど、いらっしゃいます。どちらですか?」

『あ、すみません、4階です!あの』



4階。
そう聞いて、少しどきりとした。
デスクでまだカルテやパソコンと向き合っている、先生の横顔を見る。


人間とは、たった1週間でこんなにやつれられるものなのか、と思わせられる横顔。



『すみません、谷先生に、伝えてください、あの ―――……』


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