聖夜の奇跡

がちゃん!


と、若干乱暴に受話器を置くと、私は思わず先生の肩を掴んでしまった。



「先生、4階からで」



私がそう言うと、先生の目に怯えか焦りが見えた。
藤川師長の容態のことだと、すぐに悟ったのだろう。



「目、覚めたそうです。手が空いたら、来てくださいって!」



――― 途端。
ずっと、モノクロの世界にいたみたいな錯覚に襲われる。


それまですっかり表情をなくした顔が、みるみるうちに力を取り戻すその様はまるで、鮮やかに世界が色づいていくように見えたから。



「そうか、そうか」



小さな声で呟く先生の腕を私は引っ張って立ち上がるように促す。
手元にあった、検査依頼書を確認すると。



「先生、この患者さん検査結果後日ですし、また後で書いてくれたら大丈夫ですから」



だから、早く行ってください。
そういう意味を込めて言うと、先生は頷いて。



「ありがとう、後で書きに来るから!」



先ほどまでの、死にそうな声と違って、それは覇気のある声だった。
白衣を翻して、小走りで内視鏡室を出て行く。


私は、その変貌ぶりに少し驚きながら背中を見送る。



「すごいなー…恋の力」



そう独りごちて、デスクへと目を落とした。

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