聖夜の奇跡
握り締めた手を額にあてて、まるで祈るかのように。
すすり泣く、合間に聞こえる、良かった、良かったと繰り返す声。
先生はきっと、彼女が後遺症が残ってももう起き上がれなくても。
生きてさえくれればそれで良かったのだと思う。
それだけを望んで、一生面倒を見るといった言葉に嘘偽りはなかっただろう。
西日の射す茜色の室内は、まるで切り取られた絵画の世界のようで入ることはかなわなくて。
涙を流す横顔は、やっぱり私が今まで見たことのない顔だった。
それでも、死んだような顔よりマシだ。
「綺麗」
思わず呟いた。
目頭がじんと熱を孕んで、いつか感じた微かな胸の切なさが、倍になって溢れてくる。
私はきっと、先生に少し惹かれ始めてたのだとその痛みが教えてくれる。
だけど同時に、叶わないとも。
今、目の前の、この姿に。
妻もいる、子供もいる分際で
正しくもない、間違いだらけのその姿はそれでも情に溢れて見えた。
今まで見た何よりも
これ以上の『愛』を私は見たことがない。
声をかけるのも躊躇われて、二人の姿に目を離せずに暫く立ち尽くす。
ちょうど4階の看護師が通りがかり声をかけた。
谷先生がそこの病室にいることを伝え、先生のPHSを預けるとわたしはやっと、内視鏡室へと戻った。