恋におちて


「ん?」

手を繋いだままだったから、立ち止まった
私に気づいた彼が振り向きながら首をかしげた。

「どうしました?」

二人の間にあった距離を彼が一歩縮めた。

ただ見上げるだけの私に、

「どこか痛めた?」

その表情を見ればホントに心配してくれている
のがわかって、胸がきゅってなった。

繋がれた右手に視線をさげ、そっと左手を
添えて手を離し、一歩後ろに下がった。

何か言おうとする彼の言葉を遮るように
頭をさげた。

胸の苦しさを唇を噛んでこらえる。

「今日はありがとうございました。」

「えっ…いきな「とても感謝しています。」

下げた視界に彼の差し出された手が見え、
ゆっくり頭をあげた。

大丈夫。ちゃんと笑える。

「母の我が儘に付き合わせてしまって
すみませんでした。」

本当に申し訳ないと思う。

「間違っても話が進むことがないよう、
私のほうから母にきちんと話しますので
安心してください。」

「ちょっ…待ってくれ!何でいきなりそうなる?」

何でって言われても…
何故、彼がこんなにも焦っているのか
わからない。

「えっ…だって……」

「何か気にさわることをしたのか?」

「気にさわるというか…」

「はっきり言ってくれないか。」

「………あの、」

言葉にすることに抵抗がある。
恥ずかしいのもあるけど、
なんだか泣きたくなる……






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