恋におちて


視線を合わせることが出来なくて、
下を向いたまま自分の首筋に触れた。

「見るつもりはなかったんです。」

「………何を?」

……気づいてないのかな

「首筋に……あの………」

「…首筋?」

「はい。さっき橋のところで見えてしまって…」

言葉を選ぶたび申し訳なさだけが募っていく。

「相手の方にも申し訳なく思っています。」

再度頭をさげた。

「相手?」

訝しげるような彼の声に答えるように
頭をあげ、微笑んだ。

「いくら義理だとわかっても…
高橋さんのことを信じていても
いい気はしないと思います。」

「……!!!」

眉間に皺を寄せ、難しそうな顔をしていた
彼が私の言葉に目を大きく見開き、右手で
首筋を隠すように包んだ。

「誰にも話さないので安心してください。」

お父様の態度をみていて、
きっと彼女さんの存在を話してないことは
察しがついた。
彼が話してないことを私が話す訳にはいかない
と思った。

“はりっきった”と、言っていた時のお父様の
顔を思い出すと、とてもではないが断ることは
出来なかったんだろう。
だから、彼を不誠実だとも思わない。

「早く安心させてあげてください。」

“彼女さんを”って言葉は言いたくなかった
から、笑うことで伝わることを願った。


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