恋におちて

26才の本気 side 晃



彼女の様子がおかしい。

親父が予約した料亭で食事をしている時も
ついさっきまでも緊張はしていたみたいだが、
それでも表情は豊かで柔らかい雰囲気は
あったのに…

いつからだ?
目元のクマを指摘された時も
控えめな笑顔だったが、それは言ってもいいか
どうか迷うようなしぐさで…

太鼓橋を降りたぐらいからか?
優しい笑顔が強ばったものに変わったのは。

探るように彼女に話しかけても様子を伺って
見ても、答えはちゃんと返ってくる。
口元にも笑みを浮かべている。

………目を合わせてない?

一歩先を歩く俺が少し振り返って彼女を見ると
いつも彼女の視線は俺を見ていた。
……が、今は?

足元だったり、前を見ていても少しずれて
いたり、俺を見ていない。

小さな変化だった。
ほんの些細な変化が俺に違和感を与えた。

ホテルの正面に近づいてきた頃、突然彼女が
立ち止まった。

振り向き近づくと、一歩さがる彼女。
その表情はとても悲しそうに見えた。

頭をさげ、謝罪と感謝の言葉を紡ぐ彼女に
嫌な予感しかしない。

話そうとする俺の言葉を遮る彼女は
笑っているのに泣いているように思えた。

彼女を傷つけたのなら謝りたい。
気づかないうちに何かしたのかと訊ねると

「首筋に……」

と、言われ考える。まだわからない俺に
彼女が発した言葉に絶句した。




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