恋におちて


マジか……
全く記憶にない。
普段でもキスマークなんてつけないから
頭になかった。

そんなモノを見れば断る前提だと思われても
仕方ない。……てか、会うまでは断るつもりだ
ったが、今は違う。
話をすればするほど、彼女を知れば知るほど
溺れていく自分がいる。

ずっとこの時間が続けばいいと思った。
彼女のほうから戻ろうと言われた時、
引き留める言葉を探した。

だが、それをいくら言葉に置き換えても
今の自分には何の説得力もなく、
その場しのぎの言い訳にしか聞こえないだろう。

「安心させてあげてください。」

その言葉と切ない笑顔に
喉の奥が熱くなった。


”このまま帰しちゃいけない“


強迫観念とも言える強い思いを抱いた。

「謝らなければいけないのは俺のほうです。」

今さらだが彼女に対しては誠実でありたい。

「言い訳も弁解もしない。
自分では見えないが、たぶんあなたが思って
いることに間違いはないと思う。」

口元にほんの少しの笑みを浮かべながら
彼女は俺の話を聞いてくれている。

「確かに昨日、付き合っている人と
過ごした。もともと結婚はまだ早いと
思っていたし、今日も食事をする前に頭を
下げて帰るつもりでいた。」

“もういい”
いつ言われてもおかしくない否定の言葉に
怯えながら、それでも
彼女に言葉を挟む余裕を与えない為に
俺は必死に言葉を紡いだ。




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