恋におちて
「4年“も”一緒にいて結婚を意識したことは
一度もない。」
「!!!」
「悪かった。」
いい加減な気持ちで付き合っていた訳じゃ
ない。
それでも、それは俺の勝手な言い分でしか
なく、さなえを傷つけたことに変わりはない。
「容赦ないのね…少しはやさしくしてくれ
てもいいんじゃない?」
「責任のとれない優しさは余計に傷つける
だけだ。」
「こんなにコケにされたのは初めてよっ」
勢いよく立ち上がり、俺を見下ろすさなえの
目には激しい怒りが見てとれた。
「コーヒー謝らないわよ。」
「あぁ。」
「せいぜい捨てられないようにね。」
そう言って早足で店を出ていくさなえを
振り返ってみることはなかった。
後味の悪さを否めないが、自業自得だ。
どっと体が重くなる。
こぼれたため息が思いの外深くて
想像以上に緊張したいたことに今更気づく。
コーヒーを飲む気にもなれず、
伝票に手を伸ばし、会計を済ませて店を出た。
このまま彼女に会いに行きたい衝動を、
漂うコーヒーの香りがブレーキをかける。
ふと、悲しげに笑う彼女を思い出した。
感情を激しくぶつけてきたさなえと
対照的だった彼女。
蔑みや嫌悪の言葉一つ言わず、待ってると
寂しく笑ってくれた彼女…
明日の勤務は…と予定を確認する。
彼女は仕事だろうか…
連絡先は親父に聞いて…
いつの間にか、俺の頭の中は彼女とのことで
埋め尽くされていた。