恋におちて
誓い

自分の気持ち side 深雪




「素敵な方じゃない。」

「そうね…」

母の言葉に曖昧に答える。

“待っていて欲しい”

彼の言葉が頭から離れない。

付き合っている女性がいること、
結婚する気がなく、断るつもりでいたこと…
すべて包み隠さず正直に話した彼は
とても誠実な人だと思う。


「どうするの?」

何を?とはあえて聞かない。

「相手の方からの連絡を待ちます。」

「そっ」

呆気ないほどの短い返事に苦笑いがこぼれる。

「だからお母さんも待っててよ?」

「なっ…!」

「余計なことはしないでね。」

「………はぁ。わかったわよ。」

母が私のことを理解しているように
私なりに母のことを理解しているつもりだ。

影でこそこそと連絡を取り合われては
たまらない。

あくまでも彼の気持ちが一番大事なのだから。

「……ねぇ」

「なに?」

珍しく遠慮しながらの声に視線を向けて
返事をすると、

「次の人、探したほうがよさそう?」

ちらちらと視線を向けながら小さな声で
言われた言葉に思わず吹き出してしまった。

「人が気を使ってるのにっ」

笑いだした私に唇を尖らせ拗ねる母は
やっぱり50代には見えない。

「気を使って頂いてありがとうございます。
一週間待っても連絡がなかったら
お願いします。」

「はいはい。一週間ね。」

学生時代から男の子のおの字も全く気配を
感じない私の事を心配している母。

そろそろ肩の荷をおろさせてあげたい。

“一週間”

自分で決めたタイムリミット。
胸に小さな痛みを感じた。

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