恋におちて


「結婚する気なんてねぇよ。」

親父には悪いが本心だから仕方ない。

この春、やっとホントの意味で医師として
勤務にあたれるようになったばかりで
自分の事で精一杯で他の事に
気を使う余裕なんてどこにもない。

それに、親には話してないが、
付き合ってる女もいる。

結婚を考えてる訳じゃないが、
そんな状況で見合いするのは
彼女にも、見合い相手にも失礼だろ。

「しばらくは仕事に専念したいから。」

眉間に深い皺を寄せ、険しい顔の親父に
嘘ではない無難な返事をした。

「とりあえず会うだけでもいいから
時間をつくれ。」

「だからさ……」

石頭の頑固親父だとは知っていたが、
人の話を聞かないとは知らなかった。

「了承しない限り帰してもらえないわよ」

頭を抱える俺を面白がるような
楽しそうな声とコーヒーのいい香りがした。

「………」

助けを求めるように母親に視線を向けると、
食事は?なんて的はずれな事を聞かれた。

「こんな話されて食欲なんてねぇよ。」

味方が居ないことを悟り、
項垂れる俺に

「一度会えば和志さんも納得するから。」

あなた以上に頑固なのは知ってるでしょ?
と、言われてはぐうの音もでない。


ハァ~

親を前に盛大なため息がこぼれたのを
今回ばかりは許して欲しい。

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