泥酔ドクター拾いました。
「ほのか…」

わずかに唇が離れた瞬間、私が抵抗する直前に彼は確かにそう呟いた。

ぼんやりとしてしまった私の脳内は一気にクリアになった。


プチン。
バチン。

私の堪忍袋の緒が切れる音が早かったのか、それとも私が一瞬にして彼を突き飛ばして、右手で彼の頬を引っ叩いたの音が早かったのか。

そんなこと、分からなかった。

27年間平穏に生きてきて、男の人を、ううん、誰かを引っ叩いたことなんてなかった。
叩いた右手がやけに熱くて、ジンジンする。


「いってぇ」

低くて色気のあるバリトンボイスが苦痛の声を上げた。
私に叩かれた左頬を両手で押さえ、彼は丸くなるようにしゃがみ込んだ。

< 16 / 225 >

この作品をシェア

pagetop