カタブツ皇帝陛下は新妻への過保護がとまらない
五日後、馬車と汽車を乗り継ぎチェルシオ王国郊外にあるユーパリアの城に帰ってきたモニカは不幸な事故に見舞われる。
城の階段から転落し、強く頭を打って意識を失ってしまったのだ。
家族と医師が見守る中、モニカは二日後幸いにも目を覚ます。身体や言語にも障害はなく、後遺症もないものだと思われた。
「神様にお祈りが通じたんだわ。何事もなくて本当によかった」
心の底から安堵した声で母が言ったのを、モニカも同意して頷く。
しかし、少女は気づいていない。命を助けたことと引き換えに、神様は大切なものを預かってしまったことに。
モニカは頭を打ったショックで記憶の一部を失っていた。それはとても短い期間のものだったので、本人も周囲のものも誰も気づくことはなかった。
けれど、その失った記憶の中に、忘れてはいけない約束があった。忘れられないはずの思い出があった。
「神様のご加護に感謝しなくてはいけないわね」
ベッドで手を組み神に感謝を捧げるモニカは、自分がなにを失ったかも気づいていない。
煌めく夏の日、孤高の皇太子と恋に落ちたことも、翠の瞳に魅入られ胸のときめきを覚えたことも――ふたりだけの婚約を交わしたことも。
十三歳の恋を忘れたまま、モニカは大人になった。


