【電子書籍化】王宮侍女シルディーヌの受難
「イテテ……ああ、なんてことだ。まったく、ひどい扱いだ……」
男性の口から呻くような声が出されて、シルディーヌはホッと安堵の息を零す。
動かなかっただけで、ちゃんと意識はあったのだ。
「こんなことが許されていいのか。たかだか小娘にぶつかったくらいで」
男性は体を擦りながら、小声で文句を言い続けている。
それを聞いているアルフレッドの雰囲気が、みるみるうちに暗黒色に染まっていき、シルディーヌはぎょっとしてしまう。
「たかだか小娘……だと?」
アルフレッドはぼそっと呟いた。
それは僅かに唇が動いた程度の小さな声だが、血も凍りつくほどに冷たく聞こえ、男性はビクッと体を震わせてアルフレッドを見、サーッと青ざめた。
「貴様。自分のしたことがどういうことか、まだ分かってないようだな?」
アルフレッドが一瞬でネズミが絶命するような視線を向けながら迫ると、男性は座りながらもピシッと姿勢を正した。
「ひいぃっ、ごめんなさいぃっ! 分かっております! はい、二度と、二度と、人混みの中を走りません! それからそのお方は、たかが小娘ではありません! 唯一無二の素晴らしい娘さんです! ど、どうかお許しくださいぃっ!」
叫ぶように言って、地面にひれ伏すように頭を下げたあと、樽のような巨体を機敏に動かして立ち上がった。
そしてシルディーヌとアルフレッドをおびえた目で見、脱兎のごとく逃げていく。